英語科:田中朋子先生


今回は英語科の田中朋子先生です。
2005年7月9日(土)茗溪学園101小教室でインタビューに答えていただきました。
父母会HP編集委員会 重枝(22K&25K)、石原(28K)、内田(28K)、小川(28K)
- 子どもの頃のお話を聞かせてください。
小・中学校時代は東京都日野市で過ごしました。当時の日野は手つかずの自然が残っていて、花を摘んだり、虫をつかまえたりしながら登校したものです。
兄と弟に挟まれていたためか、小学校時代はもっぱら男の子の遊びをしていました。特に「キャプテン翼」の影響もあり、サッカーが好きで、学校から帰るとランドセルを放り出して近くの公園でボールを蹴っていました。
低学年のころは学校ごっこもよくしましたが、そのときはなぜか必ず先生役をやり、「まるつけ」をするのが好きでした。
- 学年通信にエディンバラの話がよく出てきます。
中3の5月に父の転勤で、家族5人でスコットランドのエディンバラに渡りました。そのころは現地に日本人はほとんどおらず、不安だらけの出発でした。
初めて外国人対象の英語学校に行った日、一緒に行った兄が先に帰ってしまい、ひとり泣きながら帰ったこともあります。それでも英語学校は生徒が外国人ばかりなので間違いを気にせずのびのびできたのですが、3ヶ月後、現地の女子校に入学したら今度は級友の話している内容が全くわからず、芽生えかけた自信が一挙にしぼみ、頭が真っ白になりました。


-  現地の女子校では課外活動はあったのですか。
日本で小中学校時代にやっていたバスケットボールのクラブに入りました。練習は週1回だけで、裸足で練習し、トラベリングもなんのその4歩も5歩も平気で歩いてしまうというのどかなクラブでした。1回だけ対外試合があり、メンバーは随時交代するのですが、「Tomoko は替えないで」と言ってくれる子がいて、私はフル出場させてもらいました。勝利を告げる笛がなったとき、チームメートたちが「Tomokoのおかげで勝てた」と言ってとても喜んでくれました。英語での意思疎通にもどかしさを感じていたので、スポーツを通じて喜びを共有できたのは嬉しかったですね。
その女子校で2年間過ごしたあと、Fettes College というパブリックスクールに進学しました。
- Fettes Collegeはハリーポッターのモデルと言われていますね。
ハリーポッターのお話の中に、「(ホグワーツ魔法学校の)樫の木の扉を開けて奥の階段を登ると…」という場面があるのですが、それとまったく同じような扉や階段、それに尖塔、時計台などが確かにFettesにもありました。男子寮が4つ、女子寮が3つあり、スポーツの試合で対抗意識を燃やすところもよく似ています。私は入学と同時に寮に入りましたが、学年によって部屋の人数や就寝時間が違うだけでなく、最上級生しか通れない通路なんていうのもあり、そうと知らずに禁を破ってしまったこともありました。
- Fettesはトニー・ブレア首相の母校ですね。
そうですね。彼は在学中は優等生タイプではなく、随分やんちゃで鳴らしたようです。ちなみに物語としてですが、007のジェームス・ボンドもFettesを卒業したことになっています。
- Fettes在学中の印象深い思い出は?
勉強、スポーツ以外に課外のボランティア活動に力を入れました。週1回、貧しい地域にある施設で子どもたちの遊び相手をするという活動を2年間続けたのですが、自分の学校のすぐ近くなのに雰囲気がまったく違うことに最初は驚きました。そして、自分が恵まれた環境に生まれたのはただの偶然であり、そうでない人々のために力を尽くすのは当然のことではないかと考えるようになりました。
 
Fettes College(同校パンフレットより転載)
- スコットランドはイギリス(連合王国=United Kingdom)の一地方と思っている人が多いと思いますが、実際はどうなんでしょう。
スコットランドのイングランドに対抗する気持ちは歴史的に根強く、スポーツの世界でも別の国として扱われることが多いです。イギリス人はシャイで親密にならないと自分を出さないと言われますが、スコットランドの人々は比較的フレンドリーです。今でも3~4年に1回エディンバラに行きますが、ロンドンから列車で北に向かっていく途中、スコットランドに入ったことを示す標識があるんです。そのあたりから景色も変わってきて、しみじみ「帰ってきたなあ」と思います。
- 中高生時代を振り返って、一番嬉しかったことを教えてください。
中2の時、毎年開催される校内弁論大会に学年の代表として出場しました。私は「障害者に対する偏見をなくそう」というテーマで話し、全校(中学高校)で2位になりました。その頃成績もパッとせず、部活のバスケットでも補欠ですべてに自信が持てなかった私にとって、学校で初めて認められたという思いで、たいへん嬉しかったです。
- 悲しかったことはいかがですか。
エディンバラの女子校時代、いつもこちらに聞こえるように「日本人は髪が黒くて気持ち悪い」と言う子がひとりいて、ちょっとつらい思いをしました。でも、他の同級生たちは気さくで優しく、特に一番仲が良かったJennyは、面倒見がよくて学校生活のいろいろな場面で私を助けてくれました。今でも手紙のやり取りが続いていますし、エディンバラに行く時は必ず訪ねています。いつか彼女にも日本に来てほしいとずっと思っています。
- 子どもの頃学校ごっこでは必ず先生役をされていたと聞きました。ずっと教師になろうという気持ちを持ち続けていたのでしょうか。
確かにいつも先生役をやっていましたし、小学校の卒業文集にも「将来の夢は先生」と書いていたので、漠然と教員になりたいという思いはずっと持っていたと思います。
大学4年で就職活動をしていた時には、先ほどお話ししたFettes時代の体験もあり、恵まれない子どもたちを直接支援する、例えばユニセフのような組織で働くことも考えたのですが、自分の思いや目で見たことを一度に多くの人に伝えることができ、間接的に世の中に還元することができる職業ということで、教員を選びました。最終的には、家庭教師、塾講師、教育実習といった経験を重ねる中で、意志を固めました。
- 茗溪との出会いについて教えてください。
親元を離れようと思い、家から適度に離れた学校を探しました。茗溪には帰国生や寮など自分の経験に近いものがあり、同じ慶応大学の先輩が当時在職されていたこともあって、決めました。その先輩は結局私と入れ替わりに茗溪を去ってしまったのですが。
- 茗溪で英語を教えていてどんなことを感じられますか。
私はこれまで毎年、少なくとも1クラスは中1の授業を受け持ってきました。多くの生徒は入学して初めて英語に接するのですが、授業が週7時間ありますから、みるみるうちに吸収していきます。授業が盛り上がってくると、生徒の口からごく自然に英語が飛び出してきます。そういう姿を見ていると、とてもやりがいを感じますね。
また、合間にイギリスの話などを取り入れて、英語はただ学校で学ぶ科目というだけではなく、実際にそれを使って生活している人たちがいる、ということを意識させるようにしています。こういう話を聞くときの集中力は素晴らしいですよ。
- 授業の準備などで気を使っていることはありますか。
教科書だけでなくたくさんの自作プリントを使って授業を行っていますが、その作成、特に中1用に限られた単語で効率の高いプリントを作ることには、エネルギーを使っています。茗溪で初めて英語を学んだ子が、卒業してアメリカの大学で勉学に励んでいると聞くと、非常に嬉しく思います。
- 英語劇を演じている生徒たちは楽しそうですね。
中学1,2年では7,8人の班で英語劇をやりますが、これには全員セリフがあります。それを知らない1年生は、照明をやりたい、「木」をやりたいなどと言います。全員セリフがあることを告げると最初は戸惑う生徒もいますが、班の仲間と練習を進めていくうちに、その楽しさにハマッていくようです。
楽しさの要因はいろいろありますが、セリフのやり取りを通して、英語を自分の言葉として相手に伝える、そしてそれに反応が返ってくる、つまり習ったばかりの英語を自由に操れる、この喜びは大きいと思います。ですからセリフを暗唱する際には、自分のセリフの意味をしっかりと理解させるようにしています。“I am so sad.”と言いながらニコニコしていたらおかしい、というようなことを繰り返し確認していくわけです。またこの英語劇はコンテストなので、いかに他の班に差をつけるか、班毎に独創的な演出を考えていく過程も楽しいと思います。同じ劇でも、毎年様々な工夫がされているので、私たちも存分に楽しませてもらっています。普段おとなしい生徒や英語が苦手な生徒が堂々と演じているのを見ると、本当に感動しますね。
- 先生方の上演を生徒たちは興味深く見ていました。
生徒と同じ演目を学年の教員が上演することもあります。その際、先生方には決してセリフを追加・省略することなく、台本の通り演じて下さい、とお願いしています。生徒たちは、自分が一生懸命覚えた英語のセリフを先生方がちゃんと言えるかどうか、固唾を飲んで見守っています。ですから、笑いが起きてもセリフになるとシーンとします。そして先生が間違えたり飛ばしたりすると、必ず反応があります。忙しい中でなかなか大変なことなのですが、先生方はとても意欲的で、おもしろい演出を考えてくれるんですよ。
- 中学でも習熟度別授業が導入されましたが、中2からにしたのはなぜですか。
すでに小学校で英語活動を盛んにやっているところもありますので、入学の時点である程度力の差がついているケースは確かにあります。でもおもしろいのは、この差がすぐにひっくり返ってしまうことがよくある、という点です。中1の最初のうちは、英語に触れた経験のある生徒が多く発言して授業を盛り上げますが、段々と初めての子たちがそれに引っ張られて積極的になり、力をつけていきます。すると、経験があっても油断しているとすぐに追いつかれてしまうわけです。結局は本人の意欲そして努力次第なので、経験があってもまったく初めてでも、興味を持って一生懸命取り組む子は、グングン伸びていきます。中1の1年間はこの状態が続くので、まずは英語に初めて触れることを前提にABCから丁寧に教え、習熟度別クラス編成の導入は中2からにしました。もちろん海外生は中1から別クラスですが。

今のところ、学年に所属し、生徒のことをよく知っている先生が英語の習熟がまだ十分でないクラスを受け持つようにしています。そして、みんなでがんばろうというムードを持たせるように、雰囲気つくりにも努めています。このクラス編成はあくまでも「習熟度別」であり「能力別」ではありませんので、クラスが変わったからと言って、必要以上に一喜一憂しないでよいと思います。むしろ自分の学習状況に適したクラスで学び、力をつけることが大切です。英語は努力すれば必ず成果が表れる科目ですので、ぜひ前向きにがんばって欲しいですね。
一方で、習熟度別にしてからは英語が得意な生徒にもさらに刺激を与えることができるので、このメリットは大きいと思います。実際、習熟度の高いクラスは課題が他より多く出されるのですが、皆、手を抜かずによくやっています。高校からは海外生も混ざった習熟度別クラスになるので、さらに高いレベルを目指して欲しいと思います。
- 高2でイギリスに行きますね。
高2の研修旅行(イギリス)は、英語を学習する上での目標になっています。現地の生徒たちと事前にメールでやりとりし、学校交流で直接話しをします。また、ホームステイも体験します。行ってみて、準備した割に英語が通じなかった場合は「もっと勉強しなくては」と思いますし、通じた場合には嬉しくなって勉強にはずみがつきます。
- 昔から日本の英語教育は会話がネックと言われてきましたが、充実した英語教育を受けている茗溪生の会話力は先生からみていかがですか。
中学ではネイティブの先生と1対1の会話のテストもやりますし、英語劇や中3のクロスカルチュラルトーク、高1のレシテーションコンテストなど、全体的に英語を口にする機会がとても多くありますので、かなり力をつけていると思います。もともと活発な生徒が多いですから、英語を話す時にもそういう面が活かされるといいと思いますね。
-  リーディング、リスニングについてもアドバイスはありますか。
英語の本を読む時は、少しやさしいレベルで、楽しんで読めるものを選ぶといいと思いますよ。あまり難しいと、「読む」というより辞書と首っ引きで「調べもの」になってしまいます。そして量をたくさんこなすことです。
リスニングもそうです。とにかくたくさん耳にすることで、音楽と同じように聞いているうちに英語のリズムが体にしみこんでいきます。DVDで、英語の音声を英語の字幕と一致させながら映画を見るのもいいと思います。リスニングは若い時に大きく伸びるので、特に中学時代に鍛えてほしいですね。
- 英語の教育を通じて生徒たちに伝えたいことは何でしょう。
英語は目的というより手段、道具なんですよね。例えば科学者になって世界で飛躍しようという時、英語ができれば自分の研究を世界中の人たちに直接伝えることができます。ノーベル賞をとった田中耕一さんなど、発音やイントネーションにぎこちなさはあっても、インタビューには英語で応じ、自分の言葉で伝えていました。サッカーの中田選手も、イングランドのチームに移籍した際の記者会見では、英語で話していました。自分の得意なことにプラスして英語ができれば、将来活躍する舞台が確実に広くなります。そのために、私たちも英語を嫌いにさせないよう努めています。


- 茗溪学園の生徒についてどう思われますか。
学業と部活動を立派に両立させている生徒が非常に多いです。ラグビー部の生徒が高3の1月まで花園の全国大会に出て、直後に志望の大学に受かってしまうのを見ると本当にすごいと思います。行事も多くて忙しい学校ですが、すべてに全力投球しているのに、それほど大変でなさそうに、さりげなく乗り越えていく生徒たちには本当に感心しています。
また行事が多いことは、個々の生徒が活躍できる場面が多いということでもあります。活躍できれば周囲から認められ、認められれば自信が持てるようになります。行事の際には、授業中とは全く違う姿が見えることもあるので、教員にとっても勉強になることは多いですね。
- 茗溪学園の父母についてどう思われますか。
茗溪のお父さんお母さんは仲がいいですね。卒業しても父母会が続くといいます。父母のみなさんも、一緒に学校生活を楽しんでいる感じがします。また、お父さんが積極的に参加されているのが茗溪の特徴ですね。特にキャンプは、お父さんのボランティアなしでは考えられない行事です。子どもたちを見る目は父親と母親とで違うので、お父さん方が熱心に関わってくださるのは本当に有り難いことです。昨年担任したクラスでは、クラス役員がお2人ともお父さんでした。茗溪ではそう珍しいことではありません。これからも、活発な父母会活動を続けて頂けるといいですね。
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和やかな中に、先生の茗溪生に対する深い愛情と、英語教育にかける情熱が ひしひしと伝わってきたひとときでした。
長時間ありがとうございました。